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高松高等裁判所 昭和27年(ネ)348号 判決

控訴代理人は主文同旨の判決を求め。被控訴代理人は控訴を棄却する旨の判決を求めた。

事実関係につき、当事者双方の主張するところは左記のとおりそれぞれ補正する外孰れも原判決摘示の事実と同じであるから茲にこれを引用する。

被控訴人において「被控訴人は控訴人等先代赤松久の代理人松近千三郎から本件土地の共有持分権を買受けた。原判決書二枚表六行目以下の予備的主張は仮りに本件売買契約の締結について右松近千三郎に控訴人等先代赤松久の代理権を踰越するところがあつたとしても被控訴人においては右千三郎にその権限ありと信ずべき正当な事由があつたから控訴人等先代久は民法第百十条により責に任ずべきであるとするものである。控訴人等先代の死亡及び控訴人等が主張の関係により相続をしたことは認める」と述べた。

控訴人等において「控訴人等先代の代理人松近千三郎が被控訴人との間にその主張の売買契約締結の意思表示をしたことは認める。本件土地は古来洲の浜小日提部落居住の漁業者が網干場に使用している土地であつて漁民には必要欠くべからざる場所である。それ故控訴人等先代においては、昭和二十四年中右漁民の代表者清水伊勢松外数名との間で、右漁民に対し該土地の共有持分権を代金六十万円で売渡すことを協定した、ところで曾ての村長であり村内有力者たる被控訴人は一部の部落民から頼まれていた右土地買入れの斡旋ができなくなるので右代表者を圧迫し前示協定を破棄するに至らせた、これより以前控訴人等先代は、訴外松本長一から金策方を頼まれ訴外松近千三郎及び松近志津摩に相談した結果同訴外人等と共に借主訴外松本のため連帯保証をして他から金十五万円を借用し、その後保証人たる右松近志津摩においてこれが元利金十八万五千円を代払いした、それにつき訴外松近千三郎は、上叙事情により控訴人等先代が右代払金全額を負担すべきであると主張していたのであるところ叙上協定破棄の事実を知るに至るや控訴人等先代に対し右土地の共有持分権を代金六十万円とする売買の復活可能でありかつそれにより金員ができれば右代払金も控訴人等先代主張の三分の一程度で済むかのようなことを言うのでそれを信用し控訴人等先代においては訴外松近千三郎に対し売渡先き本件土地の地元に居住し漁業に従事する者代金六十万円もしそれ以下の場合は控訴人等先代に相談する旨制限を附して該共有持分権の売却を委任するに至つた。然るに訴外松近千三郎は右委任を受けたのを奇貨とし被控訴人と通謀し右委任の趣旨に背むきかつ権限をも越え前記の如く右共有持分権を地元即ち部落民でない被控訴人に対し、しかも代金二十万円で売渡したかのような契約書を作成し事実代金を授受しないのに支払済みのように作為して売買の仮登記を経、次いで本訴登記請求により該共有持分権の不法取得を企てゝいるのである。叙上の次第であるから被控訴人主張の売買契約は通謀虚偽の意思表示によるものであつて無効である。そうでないとしても被控訴人は訴外松近千三郎の背任の所為につき通謀する不法行為者であるし同訴外人の所為が控訴人等先代の代理権の制限を越えるものであるの事情を知悉し、それが暴利となるに拘らず敢えてなすのであるから公序良俗にも反し孰れよりするも無効である。これに抵触する従来の主張は撤回する。控訴人の赤松久は昭和二十八年二月二十四日死亡し、その妻赤松スヱ並びに右両人間に出生した赤松彰、ヤス子、民代等が相続した」と述べた。

<立証省略>

三、理  由

控訴人等先代赤松久(以下単に控訴人等先代と称する)が原判決添付目録記載の土地につき、同判決表示の割合の各共有持分権を有すること、昭和二十四年五月四日頃控訴人等先代の代理人たる訴外松近千三郎と被控訴人との間に右土地の共有持分権について、代金二十万円、代金支払いと同時にこれが持分権移転登記手続をする約定の売買契約締結の意思表示のなされたことは孰れも当事者間に争いがない。

控訴人等は右代理権には売渡先きは州の浜小日提部落居住の漁業者代金額はすくなくとも六十万円とする旨の制限が附されていたところが右訴外人は前記代理権があるのを奇貨とし被控訴人と共有持分権の不法取得を相謀り仮装の右売買契約をしたものであると抗争し原審証人武内栄八、田中無事郎、高月彌太郎の各証言並びに原審における控訴本人赤松久及び当審における控訴本人赤松スヱの各供述に前記共有持分権の売買契約が仮装のものであり従つて代金も授受されていないかのような部分があるけれども信用し難く他に控訴人主張の如き通謀仮装のものであることの認められる証拠はない。却つて原審証人松近千三郎、居村富士助(各第一、二回とも)の証言により成立を認められる甲第一、三、四号証成立に争いのない甲第二号証、右各証人及び原審証人居村金喜智、松近志津摩(第一、二回とも)の各証言並原審における被控訴本人の供述を綜合すれば、前示共有持分権の売買契約は、真実になされたものでありかつ被控訴人はその代金のうち十万円は現金を控訴人等先代の代理人たる松近千三郎に交付し残金十万円については被控訴人が訴外松近志津摩に対し新たに金十万円の債務を負担すると共に控訴人先代の右訴外人に対する同額の債務を消滅させる旨の所謂更改をして代金を完済したものであることを認めることができる。

次ぎに控訴人等は、代理人たる訴外松近千三郎は本人たる控訴人等先代の委任の趣旨に背むく行為をし、被控訴人もそれに通謀乃至は右松近千三郎の所為が代理権の制限を越えるものである事情を知悉しながらした行為なので無効であると抗争するから審究するに、前示原審における控訴本人赤松久及び当審における控訴本人スヱ、彰の各供述における控訴人等先代の訴外松近千三郎に対する前示委任には抗争の如き制限があつたかのような部分はたやすく信用し難い、けれども成立に争いのない乙第三、四号証、当審における検証の結果、前示証人田中無事郎、高月彌太郎及び原審証人佐藤茂雄、細川千松、桑山光義、浜田磯松、原、当審証人武内栄八の各証言並びに前示控訴本人赤松久の供述、前示証人松近千三郎(原審第一回)の証言の一部を綜合すれば(一)本件土地は所在部落居住の漁業者が網干場その他に使用して来たもので部落居住の漁業者にとつては必要欠くべからざる場所であること、(二)ところがその主たる名義人赤松源太郎等において部落漁業者の使用を妨害するようなことがあつたので控訴人等先代は右不安を除去するためこれを分割して部落漁業者に譲渡することを企て前に右訴外赤松源太郎等を相手とし共有物分割請求訴訟を提起していたがそれにつき被控訴人は該土地は部落の共有であり分割すべきではないとして抗争する右訴外赤松源太郎等を強く支持援助していたので控訴人等先代と被控訴人とは大変仲が悪く所謂犬猿の間柄であつたことを認められる。又前示証人佐藤茂雄、浜田磯松、細川千松、桑山光義、清水熊一郎、武内栄八、高月彌太郎及び当審証人細川善太郎、赤松利藤治の各証言、前示控訴本人赤松久の供述、前示証人松近千三郎の証言(当審)の一部を綜合すれば、(三)前示訴訟は第二審において控訴人等先代勝訴の判決があり解決の見込みがついたので控訴人等先代においては、訴外松近千三郎の協力を得て昭和二十三、四年頃控訴人等主張の如く前記部落居住の漁業者の有志代表との間で、該漁業者等に対し共有持分権を、代金六十万円で売渡すことの取極めをした。ところが該漁業者等は被控訴人の反対に遭い右取極めの履行を中止するのやむなきに至つたことを認め得べく、この認定に反する前示証人松近千三郎、浜田磯松及び当審証人川口久太郎、赤松伝造の各証言部分並びに前示被控訴本人の供述は措信しない。前示証人松近志津摩、松近千三郎及び原審証人松本長一、山下友吉の各証言並びに前示控訴本人赤松久の供述を綜合すれば、(四)控訴人等先代は訴外松本長一の依頼により同人に金融を得させるについて訴外松近千三郎、松近志津摩等に相談のうえその斡旋をし控訴人等主張の如く控訴人等先代久、訴外千三郎、志津摩の三名連帯保証の下に右訴外長一が他から金十五万円を借受けたがその後訴外松近志津摩において主張の元利を代払いした、そのため訴外松近千三郎が右代払金を控訴人等先代において全額負担すべき旨主張するとともに右借用に際り詐欺の所為があるとして告訴をもしたので控訴人等先代においては早急解決の必要に迫られやむなく右共有持分権を売渡しその代金で右代払金も解決すべく(但し全額負担を承認したものでない)決意し、かつそれ等の処理を上叙認定の関係者たる訴外松近千三郎に委任しこれが委任状(甲第二号証)を交付するに至つたことが認められるし前示証人佐藤茂雄、赤松利藤治の各証言によれば、(五)当時右共有持分割合により分得する土地(約二反六、七畝位である)が数十万円の価値を有していたことが窺われる、このことは成立に争いのない乙第七号証の一、二第八号証、前示証人細川千松、細川善太郎の証言及び控訴本人赤松久の供述を綜合すれば、被控訴人が該土地を一畝につき、一万五千円乃至一万八千円で訴外細川千松と売買契約をしていることが認められる(尤も右細川千松の証言中これに反する部分は信用しない)ことからも推測し得られるところである。又前示証人松近千三郎の証言(原審第一回)により成立を認められる乙第一号証、前示証人武内栄八の証言(当審)及び控訴本人赤松久の供述を綜合すれば、(六)前認定持分権売渡等の委任当時控訴人等先代においては前記(三)認定にかかる中止中の部落居住漁業者との売買の復活即ち控訴人等先代は右部落居住の漁業者へ尠くとも代金六十万円で売渡す意思であつたし訴外松近千三郎においても該意思に従い受任後十数回も右部落に出向き売渡しに努力したことも窺知できる。然るに前示証人松近千三郎の証言(原審第一回の)により(七)同訴外人は他方控訴人等先代と被控訴人とが前(二)認定の如く不仲であり到底仲良くすることができないのを知つていたことが認められるし現に前(三)認定のように被控訴人から控訴人等先代の意図することを妨害されたこと、又成立に争いのない乙第二号証の一、二によれば、(八)前段認定の共有持分権の売買契約をするに際り被控訴人は度々控訴人等先代の代理人たる訴外松近千三郎と会談し同訴外人が前示(三)及び(六)認定のように控訴人等先代の意図即ち部落居住の漁業者に対しかつ代金六十万円をもつて売ることに協力して来た事情を仔細に承知するに至つたので惹いては控訴人等先代の叙上意図を知悉していたこと、仮りにそうでないとしても容易に右意図を知り得べきであつたことを推認することができる等、以上(一)乃至(八)認定の諸事情を綜合勘案すると、控訴人等先代においては前示共有持分権の売渡を委任するに際り犬猿の間柄に在る被控訴人に売渡すが如き意思は毛頭存せず却つて被控訴人には売渡さない意思が明らかであり(このことは右赤松久本人が「千三郎にこのように裏切られるとは夢にも思わなかつた」と述べていることでも明らかである。それ故これに反する右松近千三郎(原審第二回)及び前示川口久太郎の証言部分は信用し難く前(四)認定の如き事情も未だ叙上認定を覆す特別事情と言うことはできない)しかも部落居住の漁業者に対し尠くとも代金六十万円で売渡す意思であつたのである、然るに右先代の代理人訴外松近千三郎は勿論被控訴人においても、それが叙上先代の意思に背反することを知りながら又は知り得べきに拘らず部落居住の漁業者でない被控訴人に対し而かも代金僅か二十万円で売買契約をしたものであると看做すを相当とする。そうすると本件売買契約は控訴人等先代久の代理人たる松近千三郎において本人たる控訴人等先代の意思に背反して為されたものであり、その行為の相手方たる被控訴人においても亦この事を知りながら或いは知り得べきでありながら取引をしたものというべく、従つてかような悪意の被控訴人を保護する要がないこと民法第九十三条の法意に鑑み明らかなところであるから右売買契約は無効であり本人たる控訴人等先代にその法律効果を生じないと解すべく控訴人等の抗弁はこのような趣旨において理由がある。

仮りに控訴人等先代の前認定の意図が代理権の制限に該るものとするも、被控訴人においては右認定の如くそれを知り又は容易に知り得べき事情が存するのであるから委任状(甲第二号証)に何ら代理権の範囲を制限する趣旨の辞句の記載がなくてもむしろそれを奇貨として前記売買契約をしたものと言うべきである、だから民法第百十条にいわゆる代理権ありと信ずべき正当な事由を有せしときと言う場合に該当しない。それ故控訴人等先代が責に任ずべき筋合はなくこの点に関する被控訴人の主張も亦失当である。以上の説明の如く被控訴人の本訴請求は失当であり、これを認容した原判決は不当であるから民事訴訟法第三百八十六条に則りこれを取消すものとし、同法第九十六条第八十九条により訴訟費用の負担を定め主文のとおり判決する。

(裁判官 前田寛 太田元 岩口守夫)

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